子宮筋腫治療におけるキシロカイン含有SAP-MSの疼痛抑制効果の検証
【研究目的】
キシロカイン含有SAP-MSの疼痛抑制効果の検証を行い、現在行われてる子宮筋腫治療をより副作用の少ない治療として広めることを目的とする。
また、この方法を用いて行った治療の成績が、標準的な子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術と差のないことを検証する。
この試験結果は論文等で発表する予定であるが、医療材料の承認申請や商品開発の目的で使用するものではない。
【研究の概要】
子宮筋腫は、40歳以上の女性の20~50%が罹患しているとされる頻度の高い良性腫瘍である。無症状のこともあるが、筋腫特有の症状のある患者には対症療法、ホルモン療法、外科的手術などが行われる。
子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術は、1980年代にフランスの婦人科医Ravinaらが手術中の出血量減少を目的として術前に行い、症状改善と筋腫の縮小がみられることを発見し、これを契機に根治的治療法として施行されるようになった。以来、欧米を中心に普及し、塞栓物質としてPolyvinyl alcohol(PVA)を用いた子宮動脈塞栓術では、過多月経、疼痛、圧迫症状といった自覚症状の改善は64~94%に認められ、治療に対して84~95%の患者が満足していると報告されている。
また、筋腫の縮小率は6~12ヶ月で平均49~78%と報告されている。
術後には塞栓後症候群として腹痛、発熱、吐気等が高頻度に認められるが、通常一過性であり対症療法で改善する。
国内でも低侵襲な治療法として広く行われるようになってきた。
以上の状況の中で、子宮筋腫の治療法として子宮動脈塞栓術はその有効性が確認され、日本でも保険適応となり標準治療として認識されている。
この治療法は患者への侵襲性が少なく数々の利点を持つが、治療後数日間の疼痛が問題であり、疼痛制御のため麻薬の投与や硬膜外麻酔が行われている。IGTクリニックでは独自の取り組みとして、局所麻酔薬として広く用いられているキシロカインを球状塞栓物質であるSAP-MS(高吸水性ポリマー)に吸着させ、この塞栓材料で子宮筋腫の塞栓を行い、子宮筋腫内でキシロカインをSAP-MSから徐放させ疼痛制御を試みている。これまでの症例において疼痛が軽減されることは確認したが、除痛効果を得る確率、疼痛制御の時間、医療経済効果等について研究を行う。
【研究施設】
IGTクリニック
【研究組織】
SAP-MS研究会:堀 篤史(研究責任者)、堀 信一、中村達也、槇谷和紘、園村哲郎
【評価項目】
被験者の疼痛の程度、治療後に必要とした通常の除痛薬の量、投与期間、筋腫の縮小効果
【研究期間】
2021年9月より2年間
【試験デザイン】
単施設、無比較、前向き試験
【目標症例数】
50例
【研究承認】
IGT倫理委員会
【適応基準】
- MRIあるいは超音波検査で子宮筋腫と診断され、これに起因する過多月経、過長月経、貧血、圧迫症状などの自覚症状がある。
- 閉経していない症例。
- 重篤な合併症がない症例。
- 一般状態 (Performance Status (ECOG))が0、1の症例。
- 過去にキシロカインアレルギーがない。
- 患者本人から文書による同意が得られている。
- 術後の3か月後、6か月後の経過観察を行える。
【中止および除外基準】
- 妊婦、授乳婦もしくは妊娠している可能性のある症例。妊娠を希望している症例。
- 活動性の骨盤内炎症を有する症例。
- 骨盤内悪性腫瘍を有する症例。
- 12週以内にホルモン療法を施行した症例。
- MRI検査が禁忌である症例。
- ヨード造影剤に対する過敏症の既往のある症例。
- 重篤な心疾患、脳血管障害、神経疾患、コントロール困難な糖尿病または高血圧症、重症感染症、重篤な消化管出血、間質性肺炎、多量の胸水貯留または腹水貯留を有する症例。
- 担当医が本試験の対象として不適当と判断した症例。
- 術中にキシロカインアレルギーが出現した場合。
- 十分に塞栓術が行えなかった場合。
【投与方法】
- 術前には鎮痛剤、鎮静剤の投与は行わない。
- IGTクリニックで行っている通常の方法で子宮動脈塞栓を開始。
- 両側の子宮動脈へのカテーテル挿入を行う。
- キシロカインSAP(Xy-SAP)の作成SAP-MS(50~100)25mgを2% キシロカイン:0.5mlとイオメロン:2.0mlの混合液に分散させ、十分にゲル化(約10分)するまで待つ。
- Xy-SAPを1.0~2.0mgづつ、注入し、子宮動脈の血流が緩徐になるまで続ける。片側の最大投与量を片側で50mgとする。
- Xy-SAPの注入終了後、5分の間を置き、Embosphere(300~500または500~700)で塞栓術を継続する。Embosphereによる塞栓術後、Gelform細片(1~2mm角)で塞栓術を行う。塞栓術の終了の目安は、3心拍は造影剤の停滞がみられる程度。
- 塞栓術後、キシロカイン2%(15mlの生理的食塩に薄めたもの:20ml)の半量を注入する。
- 塞栓術当日は、500~2000mlの輸液を行う。
【評価法】
- VAS:塞栓術直前、片側の塞栓術が終わった時点、対側の塞栓術が終わった時点、圧迫終了時点、帰室時、1時間後、2時間後、3時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、退院時
- 術中、術後の入院中の疼痛薬の種類と量
- 術1日前、術翌日の血液検査
- 治療3か月後、6か月後、1年後の腫瘍の大きさをMR検査またはCT検査で行う。
【合併症の保証】
IGTクリニックが加入している日本医師会の傷害保険が適応される。
【データ管理】
クリニカルサポート社:中島美央
【被検者への説明書】
- キシロカインが危険な薬物ではないこと。
- 子宮動脈塞栓術に起因する痛み。
- 他院の痛みに対する対応。
- SAP-MSの説明。
- 利益相反。
【被検者の同意書】
本人の自署した同意書をIGTクリニックで保管、そのコピーを本人に手渡し。
付表
- 説明文書・同意書
- ケースレポートフォーム一式
- (3-1) 毒性規準(NCI-CTC 日本語訳JCOG-第2版)
(3-2) ヘモグロビンに関する毒性基準
- Performance status scale (ECOG)
- ヘルシンキ宣言(日本医師会和訳)